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遠方からの手紙

詩のようなもの

 八月は残酷な季節で

八月は残酷な季節で
天空のきわみから苛烈な光が地にそそぎ
記憶と希求をひとつにし
弔われぬ死者たちの声をいたるところで蘇らせる

白熱した光は
地の上にナイフでえぐったような影を刻み
アスファルトの上では過熱した空気が
消えかけた記憶のようにゆらゆらとゆらめく

視線を上に転じれば
遠い山並みには濃緑の樹々がうっそうと茂り
その一枚一枚の葉から吐き出された水蒸気が
行き場を失った魂のようにたゆたっている

喉の渇きはたとえようがなく
全身を流れる水流はそこかしこで淀みをつくり
人の流れに逆らって
つかのまの休息を求めようとしても
都会には一片の木陰すらない

われわれはどこから来たのか
われわれは何者か われわれはどこへ行くのか
と言ったのは誰であったか

すべての問いは未明の想いのように
宙吊りのまま放り捨てられ形を失った

ひびわれた大地にはいくたの悲しみが満ち
黒い巨大な鳥の影におおわれた空では
宛先のない声があちらこちらを行き交い
木霊のように響いている

血のような汗を噴き出しながら歩き続けても
どこにも行き着かず
終わりのない円環をただ描いているのみ

2007.8.13


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